第8章

CEDEC2024講演で深堀り — やねうらお・たややん

これまで学んできた 機械学習・ニューラルネット・学習アルゴリズム・CNN・Transformer。 これらすべてが将棋AIに 実装され、プロ棋士を超え、今も進化し続けている 様を、本章で総まとめします。 CEDEC2024 のやねうらお・たややん両氏の講演動画を中核に、サイト全体の知識が「将棋AI」というひとつの実例で繋がります。

この章の全体像

1

歴史で全部追体験

1974年から2024年までの将棋AIの50年。機械学習・DLの歴史と完全にパラレルに進化してきた。

2

2大潮流が共存

NNUE型(CPU + α-β + 浅いMLP)と DL型(GPU + MCTS + 深いCNN)の2系統が並走。

3

世界最強はあなたかもしれない

ソースコードもデータも 完全公開「ワン・アイデア」で最強 になる余地が今も残っている。

💡 核心: これまでの章で学んだ概念は、すべて 将棋AIで「実装され、闘い、進化している」。 抽象的な機械学習論ではなく、具体的に 勝率・レーティング・棋力 という形で現実の指標として現れる。 それゆえ将棋AIは、機械学習を学ぶうえで最高の 実例集

CEDEC2024 講演「将棋AIの過去・現在・未来」

この章は、2024年8月のゲーム業界カンファレンス CEDEC2024 で行われた、 やねうらお(やねうら王 開発者)たややん(水匠 開発者)による講演動画を中核にしています。

まずは動画を視聴することを 強く推奨します。これまでの章で学んだ概念がすべて、リアルな将棋AI開発の現場でどう使われているかが分かります。

📺 CEDEC2024 講演(必見)

YouTubeで開く ↗

以下、講演の主要内容を整理し、本サイトの他章で学んだ概念との対応を明示しながら、丁寧に解説していきます。

1. 将棋AIの50年史 — 機械学習史と完全パラレル

将棋AIの歴史は、機械学習・AIの歴史そのものと完全に並走してきました。 各章で学んだ概念が、どの時代に将棋AIに導入されたかを追ってみましょう。

📚 補足:1.1 黎明期(1974〜2005)— 人間設計の時代(クリックで展開)

1974年:将棋AI誕生。評価関数 + Minimax法のシンプルな構成。

この時代の評価関数は、人間が手で設計。「歩=100点、飛車=1000点」のような駒の点数や、玉の囲い、駒の利きなどを職人技で重み付けしていました。

対応:第1章「統計学的アプローチ」

1.2 機械学習革命(2005〜)— Bonanzaメソッド

2005年:Bonanza登場(保木邦仁氏)

プロ棋士の指し手を最善とするように、評価関数の重みを自動学習する」という発想。 これにより「評価関数作りは職人技」という時代が終わった

駒の点数や囲いの評価などの数千万のパラメータが、データから自動的に決まるようになりました。

対応:第1章「機械学習」 + 第4章「学習の仕組み」

これは 第1章 で説明した、人類史でいうと 「人間が手で決めていた重みを、機械学習で自動決定する」革命。将棋AIで2005年に起きました。

📚 補足:1.3 オープンソース化(2015〜)— エコシステム形成(クリックで展開)

2015年:やねうら王 GitHub公開

やねうらお氏がやねうら王のソースコードを完全公開。 高度にモジュール化された構造により、多くの開発者が改変・派生しやすくなりました。

これによって 「探索部はやねうら王、評価関数は別の人が学習」 という分業エコシステムが成立。 水匠(たややん氏)tanuki-Háo などが次々と誕生。

🔧 「探索部」と「評価関数」は何が違うのか

将棋AIは 2つの独立した部品 で出来ています。役割分担はこんな感じ:

部品仕事たとえると…
🌲 探索部 1局面から派生する 「指せる手の木」 を、何手も先まで読み進めて最善手を選ぶ 「将棋の 読み手
📊 評価関数 ある局面を見せられたら、「先手にとってどれくらい有利か」 を数値で返す 「将棋の 大局観の眼
JavaScriptで両者の関係を書くと
// 🌲 探索部:α-β木探索で「最善手」を見つける(やねうら王が担当)
function search(position, depth) {
  if (depth === 0 || isGameOver(position)) {
    // ★ 葉のノードで「評価関数」を呼んで局面の点数を取得
    return evaluate(position);   // ← ここがNNUE / 水匠 / Háo などの差し替えポイント
  }

  let bestScore = -Infinity;
  for (const move of generateLegalMoves(position)) {
    const nextPos = applyMove(position, move);
    const score = -search(nextPos, depth - 1);   // 相手番は符号反転(負号)
    if (score > bestScore) bestScore = score;
  }
  return bestScore;
}

// 📊 評価関数:1局面 → 1つの数値(NNUE / 水匠 / Háo などが担当)
function evaluate(position) {
  // ここの中身が「水匠」「Háo」「tanuki-」で違う
  // 入力: 盤面 → HalfKP特徴ベクトル
  // 中身: 学習済みの浅いMLP(NNUE)
  // 出力: 評価値(+120 = 先手やや有利、など)
  return nnueEvaluate(position);
}

search(...)」 の中身がやねうら王本体(探索の達人)、 「evaluate(...)」 の中身が水匠やHáo(評価の達人)。 関数の境界線が完全に分かれている から、評価関数だけ別人が育てたものに差し替えても動きます。

なぜこの分業が画期的だったのか
  • 探索部の改良:木探索アルゴリズム、枝刈り、並列化など 「アルゴリズム職人」の腕の見せ所
  • 評価関数の改良:機械学習、データセット、ハイパーパラメータなど 「データサイエンス職人」の腕の見せ所
  • 両者は 必要なスキルセットが全然違う。1人で全部やるより、得意な人がそれぞれ磨くほうが圧倒的に強くなる

結果として、やねうら王本体は 1つでも、その上で動く評価関数は 水匠、Háo、tanuki-、… と複数並走し、それぞれが 独立して進化するエコシステムが成立。

💡 1行まとめ: やねうら王(探索の達人)+ 水匠やHáo(評価の達人)の 分業構造が、将棋AI界の高速進化を可能にした。

1.4 NNUE登場(2018〜)— 浅いMLPの革命

2018年:NNUE(Yu Nasu / 那須悠氏)発明

「効率的に差分更新できるニューラルネット」。CPU上で秒間数百万局面の評価を可能にした。

将棋発の発明がチェス(Stockfish)に輸出され、世界標準になった稀有なケース。

🧠 技術詳細:NNUEのアーキテクチャ(クリックで展開)

技術的には 浅いMLP(4層程度)。盤面の特徴 HalfKP(玉と他駒の関係)をスパースな2値ベクトルとして入力し、ClippedReLU活性化を使う。

対応:第3章「NNの基礎」(MLP) + 第4章「学習の仕組み」

1.5 ディープラーニング派の台頭(2017〜)

2017年:AlphaZero(DeepMind)発表

Googleの DeepMind(イギリスのAI研究所)が、囲碁・将棋・チェスを「単一のアルゴリズム」で世界最強に という衝撃的な発表をした年。 それまでは「将棋なら将棋専用のソフト、チェスならチェス専用のソフト」が当たり前でしたが、AlphaZeroは 「ゲームのルールしか教えていないのに、各分野の世界最強を超えた」 ことで衝撃を与えました。

AlphaZero の3つの革新
要素従来(Bonanza系)AlphaZero
評価関数 浅い線形モデル or 浅いMLP 深いCNN + ResNet(数十層〜)
探索アルゴリズム α-β木探索(全幅で読む) MCTS(モンテカルロ木探索):方策ネットが「読むべき手」を絞る
学習データ プロ棋譜を教師あり学習 自己対局による強化学習(人間データ ゼロ
特にすごいのは「人間の棋譜を一切使わない」こと

AlphaZero は ルールだけ知った状態からスタートし、自分自身と何百万回も対局を繰り返すことで強くなりました。 プロ棋譜という「人間の蓄積」に頼らずに、たった 9時間の学習 で当時の世界最強チェスソフト Stockfish に圧勝(チェス)、将棋でも世界最強級だった elmo を圧倒。

📐 補足:AlphaZeroの自己対局による強化学習サイクル

強化学習の3要素は 第4章 の「教師あり学習」とは違う設計:

// AlphaZero の学習サイクル(疑似JS)
let model = randomInit();          // ① 完全にランダムな状態から開始

for (let iter = 0; iter < manyIterations; iter++) {
  // ② 現在のモデル同士で何百万回も自己対局
  const games = playSelfGames(model, model, { count: 1_000_000 });

  // ③ 勝敗(+1/-1/0)を「正解ラベル」として学習
  //    勝った側の手は「良い手」、負けた側の手は「悪い手」
  model = train(model, games);
}

// ④ プロ棋譜なし、ルールだけ。それでも世界最強に至る

重要なのは 「強くなったモデルでまた対局→さらに強くなる」 という自己ブートストラップ。 理論上 人間が思いつかない指し方 を発見できるのがこの設計の最大の利点(実際、AlphaGo Zeroは囲碁で前例のない布石を発見しました)。

日本への波及

AlphaZeroの論文を読んだ日本の将棋AI開発者たちが、すぐに 同じアプローチを実装し直し始めました:

対応:第5章「CNN」 + 強化学習 × DL

2. プロ棋士を超えるまで

2013年はコンピュータ将棋にとって象徴的な年。機械学習で評価関数を作る手法(Bonanzaメソッド)の延長線上で、プロ棋士のレベルを大きく超えた瞬間です(Gikou がレーティング3713を記録、プロ上限3000〜3300を突破)。

📊 補足図解:プロ超え年表(Bonanza → ponanza → Gikou)(クリックで展開)
出来事 レーティング
2009 Bonanza が竜王・渡辺明氏と対局 2815
2013 ponanza が佐藤慎一四段に勝利 3000+
2013 Gikou がプロ棋士の限界を超える 3713
(参考) プロ棋士の限界とされる値 3000〜3300
📝 具体例:画像認識(AlexNet 2012)と同時期に「人間超え」(クリックで展開)

画像認識でディープラーニングが革命を起こした 2012年(AlexNet)と1年違いというのも興味深い。 画像認識と将棋AIは、ほぼ同時期に「人間超え」を達成しました。

3. 現代の2大潮流 — NNUE型 vs DL型

2024年現在、世界トップクラスの将棋AIは 2系統に大別されます。 これは 第2章 で見た「浅いNN vs 深いNN」の対立そのもの。

3.0 図の単語を1つずつ解説

下の比較カードに出てくる単語を、まずは1つずつ噛み砕いておきます。

単語意味関連する章
α-β木探索 将棋AIの古典的な「読み」のアルゴリズム。「全部の手を順番に展開して、最善手を探す」 全幅探索の改良版。 相手の最善応手を考えると不利になる枝は α-β枝刈り で早めに打ち切るので、無駄読みが減って速い。
MCTS(モンテカルロ木探索) AlphaGo / AlphaZero が広めた読みのアルゴリズム。ネット(方策ヘッド)が「読むべき手」を推薦し、そこを優先的に深く読む。 全部の手を読まずに 「賢く読む手を絞る」 のが特徴。
MLP 多層パーセプトロン。全結合層を直列に並べた素のニューラルネット。空間構造を持たない素朴な構造。 第3章
NNUE Efficiently Updatable Neural Network の略。浅いMLP差分更新で高速に動かす将棋AI発の発明。 盤面の特徴は HalfKP(玉と他駒の関係)で表現。 第7章
量子化(int8/int16) 重みを 小数(float32)から整数(int8/16)に圧縮。サイズが 1/4〜1/2 になり、CPUのSIMD命令(並列整数演算)で高速計算できる。
差分更新 1手指すたびに 変化したビットだけ加減算して入力層の活性化を更新する技。全再計算するより数十倍速い。 第7章
CNN 畳み込みニューラルネット。盤面を 「画像のような2D構造」として扱い、3×3カーネルを滑らせて局所パターンを抽出。 第5章
ResNet 残差接続を持つCNN。「層の入力を出力にそのまま足す」 ショートカットで勾配消失を防ぎ、数十〜数百層の深いネットを学習可能にした。 第5章 §3
方策(Policy) 「次にどの手を指すべきか」の 確率分布。例:▲7八金 30% / ▲5八玉 25% ⋯ 第7章 §3
評価値 「先手にとってどれくらい有利か」を表すスカラー値(例: +120 = 先手やや有利、−500 = 後手大優勢)。 第7章 §2
GPU Graphics Processing Unit。行列演算が大量並列で得意。深いCNNの学習・推論には事実上必須のハードウェア。

3.1 NNUE型 vs DL型 — 比較カード

NNUE型

探索部: α-β木探索(やねうら王)
   ↓
評価関数: 浅いMLP(NNUE)
   - 4層程度
   - CPUで動作
   - 量子化(int8/int16)
   - 差分更新で高速

代表例:
- やねうら王 + 水匠
- やねうら王 + Háo
- やねうら王 + tanuki-

長所:
- CPUで秒間数百万局面
- ノートPCでも動く
- 普及性が高い

「速さ × 大量探索」で攻める。一般家庭のPCで動くのが強み。

vs
🧠

DL型

探索部: モンテカルロ木探索(MCTS)
   ↓
評価+方策: 深いCNN + ResNet
   - 数十〜数百層
   - GPU必須
   - AlphaZero流

代表例:
- dlshogi
- ふかうら王
- AobaZero
- 棋神アナリティクス

長所:
- 深い局面理解
- 「読み抜け」が少ない
- 終盤・複雑局面で強い

「深い理解 × 賢い選択」で攻める。GPU必須だが終盤で輝く。

3.2 両者の哲学を1行で対比

NNUE型DL型
戦略 1局面の評価は「軽くて雑」だが、大量の局面を読む 1局面の評価は「重くて精密」、少ない局面を深く読む
NN の深さ 4層(浅い) 20〜40層(深い)
1局面の評価時間 マイクロ秒オーダー ミリ秒オーダー(千倍違う)
1秒に読む局面数 数百万局面 数千〜数万局面
必要なハード CPU(ノートPCでもOK) GPU(高価)
「方策」がある? なし(探索が手を全部読む) あり(読むべき手を絞る)
得意な局面 序盤・中盤(手数が多くても捌ける) 終盤・複雑局面(深い読みが要る)

3.3 なぜ「2大潮流」になったのか

NNUE型とDL型は 哲学が真逆 です:

どちらか一方が圧勝するわけではなく、得意な局面が違うので相補的。 将棋ソフト選手権でも、NNUE型と DL型が 互角に競り合うのが現状です。 将来は 両者のハイブリッド(DL型の方策で読む手を絞り、NNUE型の評価で深く読む)も研究されています。

💡 1行まとめ: NNUE型は 「CPU・浅い・速い・大量読み」、DL型は 「GPU・深い・遅い・賢く読む」。 どちらか1つが消えることはなく 共存しています。

4. これまでの章の概念が、将棋AIで全部実装されている

動画を見ながら、次の対応表を意識してみてください。 抽象的だった機械学習の概念が、すべて実在する将棋AIに実装されていることが見えてきます。

📊 補足図解:本サイトの概念 × 将棋AI実装の対応表(全14項目)(クリックで展開)
サイトで学んだ概念 将棋AIでの実例 関連章
機械学習 Bonanzaメソッド(2005) 第1章
教師あり学習 NNUE評価関数の学習(局面 → 評価値) 第1章
強化学習 AlphaZero、dlshogi の自己対局 第2章 補足
ディープラーニング NNUE(浅い)+ dlshogi(深い) 第2章
MLP NNUEの内部構造(HalfKP_256x2-32-32) 第3章
活性化関数(ClippedReLU) NNUEで標準採用、整数演算で高速化 第3章
損失関数 NNUE学習のMSE + 交差エントロピー混合 第4章
勾配降下法 / Adam nnue-pytorchでの学習(数日でR4900級) 第4章
誤差逆伝播法 nnue-pytorchの内部 第4章
量子化 NNUEのint8/int16化(CPU高速化のため) 第4章
CNN + ResNet dlshogi の評価ネット 第5章
MCTS(モンテカルロ木探索) dlshogi、AlphaZeroの探索部 第5章
α-β探索(古典) やねうら王の探索部 (古典AI)
Transformer / Attention (将来候補) 評価関数への応用が研究中 第5章

💡 感じてほしいこと: サイトの第1章〜第5章で学んだ概念が、すべて将棋AIに実装されている。 抽象的だった機械学習論が、レーティング・勝率という具体的な指標として観測できる。 これが将棋AIを「機械学習を学ぶ最高の実例」と呼ぶ理由です。

5. 現在の最強ソフト(2024 → 2025 → 2026)

将棋AIの最強争いは 毎年塗り替えられる ハイペース。最近3年間の優勝ソフトと、その技術的特徴を追います。

5.1 2024年 — WCSC34 優勝

🏆 「お前、CSA会員にならねーか?」(2024年 WCSC34)

レーティング 4914(ノートPC、5秒思考の条件下)。 プロ棋士の上限(〜3300)を 1600以上も上回る 異次元の水準。

技術的特徴

5.2 2025年 — WCSC35 の動向

🏆 「お前、CSA会員にならねーか?」連覇(2025年 WCSC35)

レーティング R5000 超えを達成(5秒思考環境下)。前年の自分を 100〜200 上回る形で連覇。

2025年のトレンド

5.3 2026年 — 注目の技術トレンド

2026年現在、将棋AI界では 「もう人間にはかなわない」を前提に、内部技術の革新フェーズに入っています。

① Transformer / Attention の評価関数への導入

NNUE が HalfKP特徴 → MLP という古典的な構造を採用しているのに対し、 第5章で見た Self-Attention を組み込んだ評価関数の研究が活発化。 「玉と他駒のペア」だけでなく、「盤面上のあらゆる駒同士の関係性」を同時に評価できる可能性があります。

② ハイブリッド型エンジン(NNUE + DL)

「NNUE型の速さ」と「DL型の深い理解」を 同一エンジン内で切り替える 研究が進行中。

③ AlphaZero 後継の純粋強化学習

dlshogi 系統では、人間データを一切使わない自己対局のみで学習させた AobaZero や、それを商用化レベルまで高めた 棋神アナリティクス が進化を続けています。

④ 計算資源での差別化

GPUクラスタを用いた長期間の強化学習で他者を引き離す戦略。AlphaZero が示した「計算資源 = 強さ」の方程式は今も健在。 クラウドGPU の安価化で個人開発者でも参戦しやすくなってきています。

📊 2024〜2026 主要ソフトの技術系統まとめ(クリックで展開)
ソフト系統探索評価関数特徴
お前、CSA会員にならねーか? NNUE α-β(やねうら王) NNUE 2024・2025連覇、R4900〜5000+
水匠(たややん氏) NNUE α-β(やねうら王) 独自NNUE NNUE評価関数の代表。教師データ生成も公開
Háo NNUE α-β(やねうら王) 独自NNUE 高棋力で安定。終盤に強い
tanuki- NNUE α-β(やねうら王) 独自NNUE 研究系。新しい学習手法の実験場
dlshogi(山岡忠夫氏) DL MCTS 深いCNN+ResNet 日本のDL系代表。AlphaZero型
ふかうら王 DL MCTS(やねうら王枠) dlshogi系モデル やねうら王のDLバージョン
AobaZero DL MCTS 深いCNN+ResNet 純粋AlphaZeroクローン。人間データゼロ
棋神アナリティクス DL MCTS 独自CNN 商用化。プロ棋士の研究ツール

5.4 人類との実力差

参考までに、人間最強でも R3000 程度。「人間 vs AI」はもはや勝負にならず、AIは 人間が分からない領域での自己対局 で進化を続けています。

💡 1行まとめ: 2024〜2026年はNNUE型「お前、CSA会員にならねーか?」が連覇する一方、DL型が肉薄。 次の革新は Transformer導入NNUE+DLハイブリッドか、注目です。

6. 未来 — 「ワン・アイデア」で世界最強になれる

講演で最も印象的だったのが、講演者の 「ワン・アイデアで最強の将棋AIが作れる可能性がある」 という発言。

その理由は、現代の将棋AI開発が完全な オープンソース・エコシステム として成立していること:

これらすべてを土台に、1点だけ改良できれば、世界最強の将棋AIになれる可能性があります。

改善の余地 — 5つのフロンティア

候補 1

🧠 評価関数の改良

NNUEのアーキテクチャは HalfKP_256x2-32-32(2018年起源)が今も主流。 Transformer の Attention機構 を取り入れる試みなどが研究されている。

第3章 + 第5章 Transformer

候補 2

📊 教師データの調整

どんな局面を学習させるかで強さが変わる。 序盤の弱点を補う、振り飛車に特化、レアな局面を意図的に追加などの戦略がある。

第4章 学習データ

候補 3

📖 定跡の自動生成

序盤の手筋集(定跡)を、グラフ理論や強化学習で自動生成する研究。 人手で作る限界を超えられる可能性。

強化学習

候補 4

🔍 探索部の改良

α-β探索やMCTSの効率化。Stockfish(チェス)の最新探索技術を将棋に移植する、新しい枝刈り手法を発明する、など。

α-β / MCTS

候補 5

💰 計算資源

GPUで数週間学習させることで他者を引き離す。スポンサーシップで巨大な計算資源を確保。 AlphaZeroが採った戦略

学習資源

これら5つすべてで既存ソフトを上回る必要はないどれか1つで突破口を開けば、世界最強になれる。 これがやねうらお・たややん両氏の主張です。

🎯 もしかしたら…: このサイトを読んだあなたが「Transformerで評価関数を作る」「強化学習で定跡を自動生成」など、 1つのアイデアを実装すれば、世界最強の将棋AIの開発者になれるかもしれない、という現実。

7. 必勝法は存在するか

講演の質疑応答で出た面白い問い:

Q. 将棋AIは将棋の必勝法に到達できるのか?

たややん氏の答えは:理論的にはある。しかし現実的には到達不可能。よって将棋AIは終着点には到達せず、永遠に進化し続けます。

📐 数学:「二人零和有限確定完全情報ゲーム」と局面数の宇宙的スケール(クリックで展開)

数学的には、将棋は 「二人零和有限確定完全情報ゲーム」 に分類されます。これは:

  • 二人零和:2人で対戦し、片方の勝ちは片方の負け
  • 有限:手数が有限
  • 確定:偶然性なし
  • 完全情報:両者がすべての情報を見られる

このタイプのゲームには 理論上は必勝法(または引き分け戦略)が存在する ことが数学的に証明されています。

A. 理論的にはある。しかし将棋の選択肢の膨大さ必要なデータ容量から、 現実的には到達不可能

将棋の合法局面数は約 $10^{69}$ と推定されています。これは 観測可能な宇宙の原子数(約 10^{80}) よりは少ないものの、 地球上の砂粒の数(約 10^{20})宇宙の年齢(秒換算 4×10^{17}) を遥かに超える。

まとめ

  1. 将棋AIの50年史は、機械学習・AIの歴史と完全に並走している
  2. 2005年 Bonanzaメソッドで機械学習革命、2013年に プロ超え、2018年 NNUEでCPU上の革命
  3. 現代は NNUE型(CPU + 浅いMLP)DL型(GPU + 深いCNN)の2大潮流
  4. これまでサイトで学んだ概念は すべて将棋AIで実装され、闘い、進化している
  5. 2024年最強ソフトの レーティング 4914。人間限界を1600以上引き離す
  6. 未来:5つのフロンティアのうち 1つで突破口を開ければ、世界最強になれる
  7. 必勝法は理論的に存在するが、現実的には到達不可能。研究は永遠に続く

💡 サイト全体の総括: 統計学 → 機械学習 → ニューラルネット → ディープラーニング → CNN/Transformer。 これらの抽象的な概念は、将棋AIの中で 「実装され、闘い、進化する」具体的な技術として生きています。 やねうらお・たややん両氏の講演動画は、そのすべてを 50年史の物語 として教えてくれます。 ぜひ動画を最後まで見てください。

次の章

第8章は 「AIを作る側」 の開発者視点でしたが、次の 第9章プロ棋士視点 で将棋AIを学べます。 中村太地八段が水匠開発者・たややん氏と対談した動画を中核に、推定選択率・実質勝率の新指標棋風を真似るクローンAIなどの最先端トピックを扱います。

→ 第9章「棋士視点で学ぶ将棋AIの最先端」へ進む

📝 具体例:自分でも将棋AIをセットアップしてみる(クリックで展開)

動画を見て、自分でも将棋AIを動かしてみたくなったら、まっしー版のセットアップガイドが既にあります:

  • やねうら王 V9.00 + Háo による無料セットアップ手順(macOS, Apple Silicon対応)
  • ShogiHomeを使った棋譜検討・解析環境

これらのセットアップは別の場所にまとめられています(CEDEC2024講演で紹介された全エコシステムの実装)。

参考リンク